生物環境科学科/森林・環境資源科学専攻には12の研究室があり、2つの系(生物共生・環境系資源利用系)に分けられます。各研究室の研究内容と教員からのメッセージを掲載しています。各研究室のさらに詳細な情報については、リンク先の研究室ウェブサイトをご確認ください。


 名古屋大学研究者総覧を参考に、2名以上の教員が所属している学会・協会についてまとめてみました(2024年11月現在)。これらの学会・協会の年次大会などが、研究成果を発表する場となることが多いでしょう。ただし教員1名のみが登録していたものはすべて[その他]扱いとしてあり、これ以外にも多数の関連学協会があります。

生物共生・環境系

土壌圏物質循環学

土壌圏物質循環学

  • 渡邉 彰 教授

 土壌圏を中心とした環境中における物質循環・元素循環を明らかにすることを目的とし、それらを通して環境・食糧問題の解決に寄与する。現在は、地球温暖化や土壌肥沃性に関わる土壌有機炭素、窒素の化学構造・反応・機能・動態の解明に重点を置いている。

◆渡邉 彰 教授からのメッセージ

 土壌の中の炭素や窒素の動きを研究することは、人類の生存と地球環境を守ることにつながります

 人類の生存を支える農作物は土壌なくして育ちません。しかし“肥沃な土”の基となる土壌有機物は森林伐採等の環境変化によりわずか数年で約半分が失われてしまい、元に戻すためにはその何十倍もの時間が必要です。土壌圏物質循環学では、命を育む土壌がどのように形成され、その中で有機物や無機物がどのようなメカニズムで循環するのかを探ることを通じて、環境変動や人間の活動が土壌に与える影響を評価し、土壌環境の改善に貢献する研究を行っていますまた土壌の研究は地球温暖化とも深く関わっています。地球上の土壌に留まる炭素は森林等陸上植物の2倍、大気の3倍であり、土壌は陸域最大の炭素貯蔵庫です。土壌有機物が消耗すると、生物生産性の維持が困難になるだけでなく、大気中の炭素濃度を増大させ、地球温暖化を加速させることになります。だから土壌が炭素をプールするメカニズムを研究することの重要性は、ますます高まっていくと思います。 土壌の熟成は100年単位、1000年単位で進行します。長時間かけて育まれた土の持つ力を研究することは、まさに私たちの将来に関わる重要なテーマであることを強調したいですね。


植物土壌システム学

植物土壌システム学研究室

  • 谷川 東子 准教授

 植物、土壌、微生物の三者間が相互に与えあう影響を解明することにより、森林生態系(とくに人工林)の持続性、健全性を検証する研究を行う。

◆谷川 東子 准教授からのメッセージ

 森林の永続的な利用を土壌―植物相互作用から考えます

 森林、とくに私たちが利用している人工林が、「どのような ”植物ー土壌ー土壌生物の相互作用系” を形成していて、どのような系にシフトしていこうとするのか?」を明らかにする研究、そして「永続的に森林を利用するために、人類が気をつけるべきこと&工夫できること」を抽出するための研究を展開しています。


森林水文・砂防学

森林水文・砂防学研究室

  • 五味 高志 教授
  • 小谷 亜由美 准教授

 人と自然との関わりの多層性・多義性に留意しその実態を把握・解明しグローバルからローカルまで、そのあり方を提言するため、特に森林など様々な土地での水循環の動態、および地域社会と災害脆弱性について探究する。

◆小谷 亜由美 准教授からのメッセージ

 地球上の諸現象のつながりを映す水循環、水の流れを追うことで土地の姿がみえてきます。

 降水として地上にもたらされた水は,地面を潤し生命を育て,一部は地表や地中にとどまり,一部は人間社会の生産活動にも利用されたのち,海洋へ注がれるとともに大気に戻ります。このような地球上とくに地表付近の水の流れや分布を把握し,そのメカニズムを探求する学問を「水文学・すいもんがく」といいます。水文学in生物環境科学では,森林をはじめとする植生地における水循環の研究を通して生物と環境の相互作用を解明し,その将来の在り方を見出すことを目指します。植物の生育は水環境に依存すると同時に,地中水を吸いあげて利用したり,根系・土壌の発達を通して地中に水をとどまらせたりする植物の存在が森林の水の動きを左右します。そして森林水循環は河川や地下水の流出を通して,下流地域の水資源にも影響を及ぼし.均衡のとれた状態で循環しているうちは,生態系も水資源も安定しますが,水循環の変動はときに土砂災害などの自然災害としてあらわれ,それに対する人間社会の取り組み(防災・減災)が本研究室の柱のひとつです。あなたの関心事や解決したい課題を水循環との関わりから考えてみませんか?


森林生態学

森林生態学研究室

  • 戸丸 信弘 教授
  • 中川 弥智子 准教授
  • 策勅格尓 特任助教

 森林の保全と持続可能な利用を目指して、森林が創られ、発達し、維持されるプロセスやメカニズムを明らかにするため、森林群集の構造、動態、機能および樹木個体群の遺伝的変異、繁殖、生態生理、物質生産に関する研究を行う。

◆中川 弥智子 准教授からのメッセージ

 生命のゆりかごであり、豊かな機能をもつ森の持続性をめざして、森が、森であり続けるしくみの解明に取り組んでいます。

 人類は、森の恵みなしには生存できません。例えば森によって水質が浄化されたり水量が調節されていることはご存知でしょう。また森は生き物の宝庫です。多種多様な動植物や菌類によるネットワークによって生態系の働きが生まれ、 その恩恵によって私たちの社会は支えられています。
 森は一見すると静的なようですが、寿命や台風などの撹乱にともなう木の世代交代の時には、実は劇的な変化が起きています。世代交代が順調なら森はずっと存在できますが、うまくいかなければ森の働きが低下したり、場合によっては森が消失したりしてしまいます。
 私たちの研究室では、森が森であり続けることができるしくみの解明に取り組んでいます。木が咲かせた花のうち、種子になって芽生えて成長し、また花を咲かせる木になる確率はほんのわずかです。花粉を運ぶ昆虫、実を食べる動物、芽生えの育つ環境にくわえて、気候変動や人類による森林利用は大きなインパクトがあります。これらの要因が絡み合いながら森の世代交代にどう影響しているかを、フィールドワークを中心とした長期観察によって解明することで、生命のゆりかごのような存在である森の将来を守っていきたいと考えています。

夢ナビ講義Video
世界各地の森林における森の動きと生物間相互作用
 日本国内の森林と東南アジア熱帯雨林において、樹木と樹木に関わる動物について野外調査した結果を紹介します。静かに見える森林のダイナミックな動きや、一度定着したら動くことが出来ない樹木の巧みな生存戦略について見ていきます。


森林保護学研究室

  • 梶村 恒 教授
  • 土岐 和多瑠 講師

 生態系を構成する様々な生物の生態特性や時空間的動態、生物間相互作用の解明を通して、森林・里山・都市緑地等、緑域生態系の保全方策を考究する。また、昆虫と微生物との共生機構と進化過程の解明を通して、生物多様性の創出・維持機構を明らかにする。

◆梶村 恒 教授からのメッセージ

生物多様性を知り、生態系・環境を守る!

 生物をリアルな“生き物”として見つめ、緑域環境におけるダイナミックな関係を理解し、人と自然の共存を目指しています。とくに昆虫を中心とする動物、微生物に焦点をあて、それらの存在・共生様式や相互関係、加害性を解明しています。野外調査をベースに、進化的な背景を意識して、様々な実験・分析を行っています。


森林資源管理学

森林資源管理学研究室

  • 山本 一清 教授

 森林の先端的計測技術の開発、森林資源管理に関わる理論の構築、森林の将来計画立案とその評価手法の開発に関する研究。

◆山本 一清 教授からのメッセージ

 先端のIT技術を駆使し、一本の木にいたるまで上空から正確に計測。森林の管理と森づくりの将来に活かせる技術の開発と実証をとおして、地球温暖化の抑制をめざします。

 地球温暖化に関わる二酸化炭素。その地球規模の循環の中で、森林は吸収源や貯蔵庫として大きな役割を果たしています。この森林の状態を正確に把握し、資源として活用するために、私たちは航空機やヘリコプター、ドローンを使った先端的な計測技術を開発してきました。例えば航空機に積んだLiDAR(レーザを使ったリモートセンサ)を使って、一本一本の樹木の高さ・位置を正確に測定する技術や、樹種や幹の太さを推定できるシステムを企業や行政と協力して独自に開発してきました。さらに私たちが開発する解析システムは、森林の将来の姿を予測することにより、森林をどのように育成していくかを判断するための指標づくりにも貢献しています。
 森林は生きています。木の大きさはもちろんのこと、成長のスピードも生育環境や地形によっても異なります。したがって、LiDAR によって測定された森林の情報は膨大なデータになりますが、それらをデータベースに取り込み、スピーディに解析するシステムやソフトウェアを開発するためには、プログラミングや機械学習の知識を駆使することが求められます。今、森林に関わる学問分野にも急速に DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展しています。最新のIT技術を使って、地球温暖化抑制に貢献する森林資源の管理を支える計測・解析技術の開発には、大きなやりがいを感じています。

夢ナビ講義Video
新しい森林管理の方法
 ロボット・AI・IoT等の先端技術を活用した高度な木材生産を目指すスマート林業が注目されています。その基盤となるのが詳細かつ鋭角な森林情報の整備ですが、この講義では近年急速に進展したレーザー計測による森林情報取得技術について紹介します。


森林社会共生学

森林社会共生学

  • 原田 一宏 教授
  • 岩永 青史 准教授

 国際的な政策や地域における資源管理の視点から、人間による木材や非木材産物などの森林資源の管理・利用について明らかにすることにより、自然と人間が持続的に共生していくための仕組み、方策、制度について、社会科学的アプローチによって解明する。

◆原田 一宏 教授からのメッセージ

 森林をめぐるグローバルな課題と、地域社会の現状をフィールドワークによって把握し、政府と地域社会が共生・調和できる道を模索しています。

 私たちは、気候変動の影響を受けている東南アジア、南アジアの熱帯林の保全と利用のあり方が、そこで暮らす人々の生活や地域社会とどんな関係にあるのかを、現地調査を中心に明らかにしています。
 たとえば、多くの熱帯林は大切な観光資源でもあるので、エコツーリズムなどのために、生態系の保護や野生動物の保護が求められることがありますが、保護によって、森林系資源を利用し生計を立てている地元の村人は、森林資源へのアクセスが制限されてしまうことがあります。政府による自然保護政策と人々の森林資源に依存した生活との調和は簡単なことではありません。村人への詳細な調査や国際機関、環境NGOなどへの聞き取りを重ねて、まずはその実態を把握することから研究が始まります。
 実際の調査では現地に入ることすら大変です。インドネシアの首都から現地に近い空港に飛び、そこからクルマで半日かけて地方の町へ。そこから、何回か小船にのり、さらにオートバイで陸路移動し、着くまでに2〜3日かかることもあります。現地の村人は真剣に調査にあたる学生を温かく受け入れてくれます。ただ英語は通じないので、学生は積極的にインドネシア語など、現地の言葉を学び、そこで暮らす人々に聞き取りをして、現地調査をします。
 大学では、さまざまなテーマをさまざまな視点から学ぶことができます。高校時代の知識や経験にとらわれることなく、大きく視野を広げてほしいと思います。

資源利用系

森林化学

森林化学研究室

  • 福島 和彦 教授
  • 青木 弾 准教授

 木質系バイオマスの構成成分に関して有機化学的、生化学的、分析化学的な研究を行い、その化学的特徴・生合成機構・生体内での分布と役割を明らかにすると共に、機能性物質への変換を含めた新たな利用法を見出し、循環型社会における森林資源の高度活用を実現する。

◆福島 和彦 教授からのメッセージ

 化学で樹の話をしよう

 木質バイオマス、そのほとんどは細胞死で残された細胞壁です。細胞壁がどんな構造・特性で、どう作られるのか、化学的に調査しています。また生体内のメカニズムを理解し、活用するためには「どこに何があって何をしているのか」がカギとなります。様々な化学物質を対象としたイメージング技術の開発にも取り組んでいます。

夢ナビ講義Video
森林を化学する
 バイオマスの主体である植物細胞壁の構造/機能/形成過程、ならびに植物可動性成分の生合成/貯蔵/輸送/消費過程に関する実験化学的なアプローチによって、機能・物性発現の分子機構を解明し、次の発想へと繋がるような、新たな化学的自然観に貢献します。


循環資源利用学

循環資源利用学

  • 今井 貴規 准教授

 生物圏における資源循環のうち、特に木質バイオマスの利用について、効率性を向上させるための基礎科学の確立を目指し、木質バイオマスがその特性を獲得する樹木生理活動を、主として化学的アプローチにより解明する。

◆今井 貴規 准教授からのメッセージ

 木材の個性や特性を決定づける固有の成分を化学の力で解明し、木材の価値を高め、生物資源の利用を促進しようとしています

 私たちにとって身近な木材、樹木は、化石資源に替わる有用な生物資源です。この木材を社会の中でさらに有効に利用するためには、美しい色や香り、腐りにくさといった良い性質を最大限に引き出すとともに、利用価値を下げるような悪い性質を抑えこむ必要があります。木材が持つこのような固有の性質とは、実はそのわずか5%ほどの成分に起因することが知られています。樹木には多くの種類があっても、そのほとんどの成分(主成分)には差が少なく、わずかな成分(副成分)の違いが木材の個性を決めてしまうのです。
 私たちは、この副成分がなぜ、そしていかに生成されるかを化学の力で明らかにしています。たとえばスギの心材には赤いものと市場価値が低い黒いものがありますが、研究室において黒い色に関わる化合物の生合成のしくみの一部を定めることができたのは大きな成果です。心材の色に関わる化学物質がわかれば、化学の力でスギの価値を高めることができるわけです。 大切な木質資源の究極の有効利用とは樹木・木材の特性を最大限に発揮させることによって達成されるものです。今後とも、木材の抽出成分に関する基礎的な研究を発展させ、その利用をはかるとともに、社会貢献にもつながる研究をさらに推進していきます。


木材物理学

木材物理学研究室

  • 山本 浩之 教授
  • 吉田 正人 准教授
  • 王 晗 助教

 効率的かつ持続的に森林資源を利用するための基礎科学を遂行する。とくに森林資源の物理的性質の発現機構の解明とその応用を目指す。用いる手法は物理学、化学、および生物学である。

◆山本 浩之 教授からのメッセージ

 物理の力で樹木進化5億年の秘密に迫り、その成果を資源の有効利用に結びつける

 小さな苗木が、やがて高さ100mを超える大木にまで成長するメカニズムは、太古の時代に海から陸に上がって始まった、植物の長い進化の所産です。その秘密は、細胞壁という小さくて複雑な組織に込められています。
 私たちの研究室では、樹木の本性に物理の力で迫り、樹木の成長・細胞壁の特性・木材の機能を深に理解し、有効に利用するための基礎研究を推進していきます。


木材工学

木材工学研究室

  • 山﨑 真理子 教授
  • 安藤 幸世 助教

 持続可能な循環型社会の構築に資するため、木質バイオマスのマテリアル利用の高度化を目標とする。植物細胞から成る高次複合構造体の力学・物性解析、樹木・木質材料・木質構造の力学特性、木質化による環境設計と循環システムの構築に関する研究に取り組む。

◆山﨑 真理子 教授からのメッセージ

 自然本来のリズムにふさわしい木質資源の利用を実現するために、木がもつ力学性能とその耐久性を解明しています

 人類は有史以来、木を利用して文明・文化を築いてきましたが、木について、いまだに解明できていないことが多いことを知っていますか。たとえば木の性能は測れても将来の寿命はわかりません。私たちは、長い年月を経て育った木に秘められた力をいかに引き出し、活かすかを研究しています。
 自然本来のリズムにふさわしい木質資源の利用を実現するために、木に隠された性能や機能を解明していますたとえば歴史ある社寺や古民家の中の古い木材。長く使い続けるためには、長い年月の間に受けた熱や力、水分移動などによる材質の変化を研究し力学的な性能を評価することが大切です。また木はCO2を吸収し炭素として貯蔵します。木材をずっと使っていくことは、炭素をずっと貯蔵し続けることになります。でも、今使われている木材を破壊せずに調査することは困難です。そこで私たちは木材の膨大な強度データを収集し、独自のシミュレーション法により強度特性を求めることに成功。伝統的な木造建築の調査や修復に大きく貢献しています。
 私たちがめざすのは、社会の中を動く木質資源の循環を今よりゆっくりとしたものにすること。生態系、水の流れ、土壌などを含む環境のリズムの中で、木材を生み出す森林を本来のリズムに戻すために、また、人間社会の木材利用が自然の環境リズムとハーモニーを奏でられるように研究を推進していきたいと思います。

夢ナビ講義Video
脱炭素社会と木材~森林と街をつなぎ価値の循環を作る~
 今、世界中で木造建築が新しい時代を迎えています。木質材料や建設技術の開発が盛んとなり、大型の木造建築も建てられています。この講義では、その背景である気候変動対策としての木材利用の意味を説明するとともに、名古屋大農学部での研究を紹介しています


生物システム工学

生物システム工学研究室

  • 土川 覚 教授
  • 稲垣 哲也 准教授
  • 馬 特 助教

 農林水産資源および生物圏環境を対象とする先端計測システムや木質材料の精密機械加工プロセスの創出に関する研究を国際的に展開する。基盤となる学問領域は、木質科学、応用分光学、農業工学である。

◆稲垣 哲也 准教授からのメッセージ

 生物資源を無駄なく利用することを目的に、最先端のシステム工学を駆使した機械プロセスを開発します

 私たちは「農学と工学の融合」をキーワードに、生物資源を有効に利用するための技術開発に取り組んでいます。研究対象は木材や野菜・果物などの自然の恵みですが、その機能や特性を分析する手法は限りなく工学的です。具体的には、可視光線と赤外線の中間にある近赤外線を使った近赤外分光法や、マイクロ波より波長が短い電磁波を使ったテラヘルツ分光法によって、機能や特性を見える化し、正確に解析する技術の確立をめざしています。また、センサと画像処理技術を応用した、植物にとって心地よい環境を植物と対話しながら実現する「植物工場」の研究も進行中です。

夢ナビ講義
エンジニア的発想で未来を切り開く「生物システム工学」
 魚を焼くグリルやコタツに使われているのは遠赤外線です。それでは、近赤外線は? あまり聞きなれない光の名前ですね。近赤外線は人の目で見ることができないのですが、さまざまな場面で活用されているようですよ。